相続人の兄弟仲が悪い事例・遺留分に対し特別受益で対応した遺言

80歳代のAさんには、2人の息子がいます。妻は既に死亡しています。2人の息子はいずれも結婚し家庭を持っていますが、長男のBさんはAさん名義の自宅にAさんと同居し、Bさん家族がAさんの面倒を見ています。一方、二男のCさんは関東方面の企業に就職し、そのまま関東のある県に自宅を建てて住み着いています。今後、Cさんが地元に帰ることはないようです。なお、Aさんは、Cさんの自宅建築資金としてまとまった金額を貸していますが、まだ全く返済がありません。

Aさんの心配は、BさんCさん兄弟の仲があまりよくないことです。自分が亡くなったときに遺産の分け方でもめるのではないかと心配しています。というのも、Aさんの遺産としては、自宅の土地・建物の他にはわずかな預貯金しかなく、Aさんとしては同居して自分の面倒を見てくれているBさんに自宅を相続させたいと考えていますが、わずかな預貯金だけでは取り分が少ないCさんが遺留分減殺の請求をすることで、Bさんが自宅に住めなくおそれがあるからです。Aさんは、Cさんに対しては住宅資金を貸してあげることでCさんが自宅を建てることもできたので、自宅についてはなんとしてもBさん家族が住み続けることができるようにしてあげたいと考えています。

 

【当事務所からの提案&お手伝い】

AさんのCさんに対する住宅資金の貸付は、Aさんがその返済を免除することもできます。そうなるとCさんに返済を免除した金額は贈与となり、「特別受益」にあたります。特別受益とは、簡単に言えば、相続人が生活費などの生前贈与を受けている場合に、遺産分割にあたってその贈与分は遺産相続分としてすでにもらったものとして計算する制度です。従って、この特別受益があることで、CさんがBさんに対して請求する遺留分がなくなる可能性があります。この特別受益をうまく遺言に盛り込む必要があります。

遺言の内容としては、まず、「Aさんの自宅の土地・建物をBに相続させる」こととしました。しかしこれだけでは、ほとんど取り分のないCさんが遺留分減殺請求をするおそれがありますので、付言事項として、「Cに対する貸付金◯◯万円はその全額の返済を免除するが、これをCの特別受益として考慮してこのような内容の遺言をする」といった文章を入れて、特別受益の存在を明確にしました。

以上の内容で、公正証書の遺言を作成しました。

 

【専門家の意見】

高齢になった親が、同居して自分の面倒を見てくれている子どもに唯一の財産である自宅を相続させたいと考えるのはとても自然なことです。しかし、遺留分の制度では、親との関わりが薄い子どもであったとしても一定範囲の取り分を認めているため、自宅の他に分けることができる財産がない場合は、自宅を売却して遺留分を支払うといったことにもなりかねません。

一方、特別受益という制度もあります。簡単に言えば、生活費や学費、結婚資金などの生前贈与を遺産の前渡しと考えるものです。特別受益があるかどうかは遺産分割の時に相続人間で話し合うことになりますが、特別受益と認めるかどうかについて相続人間でもめることがあるかもしれません。その点についても遺言の付言事項として入れ込んでおけば、一定の証拠にもなり、相続人間の争いの予防にもなるのではないでしょうか。

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